そうめんとジップロックと

f:id:pen-to-kami:20210609123112j:plain

そうめんとジップロック

今週のお題「そうめん」

ひとり暮らしの私。そんな私には定期的に母から宅急便で「おいしいもの便」が届く。 

母からの宅急便は、大学入学を期にひとり暮らしを始めた頃からだから、かれこれもう15年以上になる。

今までいろんなものが送られてきたけれど、1番驚いたのは「大漁」と書かれた鯛の形のクッションが食材にまみれて送られてきたときで、思わず

「お母さん、なんか知らんけど、変な鯛のクッション入ってるで」
と即座に電話したのを覚えている。ちなみに母の答えは
「それ、かわいいじゃろ。部屋に置いとき」
とのことだった。20代の女子の部屋に鯛のクッション。母のセンスおそるべし、と絶句したのも覚えている。

 

お母さんから段ボールに詰められたいろいろなものが送られてくる、いや、送りつけられてくる経験はきっとひとり暮らしをしているみんなにあるはず。
届いた段ボールを毎回楽しみに、でも恐る恐る開封したことがあるのでは?

 

そんな宅急便の中身にすこし変化が生まれたのがこの1年ほど。

仕事が忙しくまともなご飯を食べないことがたたって体調を崩してからは、謎の雑貨や謎の健康器具に変わって、母の手料理が段ボールに詰まって届くようになった。
筑前煮、きびなごの南蛮漬け、ひと口ヒレカツ、ハンバーグ。

届くそれらはいつしか私と母の間で「おいしいもの便」と呼ばれるようになった。送られてくるごはんには、感謝しかない。
母からのおいしいもの便が定期的に届くようになって、食卓も華やかに、そして体重もぷくぷくと増えて、私はみるみる健康的になった。

そんなおいしいもの便も、もう何便目?というぐらい回数を重ねた夏間近
「そういえば、そうめん好きよね」と母に聞かれて
「うん、好き」と答えると
「じゃあ今度のおいしいもの便で、そうめんも一緒に送るから」
と、そんな会話があった。

 

そして届いたおいしいもの便。

いつものように母お手製のごはん達によりそうように・・・というか食い込むように、そうめんの束、束、束、束、束!
段ボール半分、そうめんまみれ。今回むしろ、そうめん便。

 

これもひとつの、段ボールあけてみたらあるある、かもしれない。同じものをこれでもか、と送ってくるのは母の特徴、というか、母の生態系だと思っている。
量の多さはきっと母が娘を思う気持ちに比例していると思って、この夏はせっせとそうめんを消費しよう。ただ次
「そうめん好きよね」と聞かれても
「好き」と答えられるかは、自信がない。

 

そんな今回のおいしいもの便ならぬそうめん便には、母の性格もきっちりと箱詰め。
そうめんを保存する用の縦長のジップロックが一緒に入っていた。

開けてもしけらないように、そういう最後まで考えてくれるところが母らしいなと思って、じんわり。
そしてこれも、そうめんの量に負けないぐらい、大量を超す大量。ここでも爆裂する母の娘思い。

 

食べきれないほどのそうめんと、ジップロック
きっといつまでたっても忘れない、母の愛の形として思い出すことでしょう。

 

ぽつぽつとエール

f:id:pen-to-kami:20210523100440j:plain

今週のお題「雨の日の過ごし方」

雨の降る日はただ、雨を眺めて過ごしてしまう。

 

雨降りだからこそ気のきいた過ごし方をしようと思ってみる。

美味しいお茶でもいれようかなとか、やりかけの趣味に手をつけようかなとか、手紙を書いてみようかなとか。でもどれも全然できなくて、結局はただ雨を眺めて過ごしてしまう。

 

雨の中、高校生の私は母の車を待っていた。

その日は学校でとても嫌なことがあって母に、迎えに来て、と公衆電話から頼んだ。

母を待つ間もしとしと、ざーざーと雨はリズムを変えながら降り続いている。

顔にかかった雨の雫が、どうか涙に見えませんようにと、ハンカチでぬぐった。

 

あいにくの雨、普段めったにはかないスカートをはいた。今日のためのスカートを濡れないようにと、裾をそっとつかんで出かけた。

 

朝から雨の日。仕事に行きたくないなと開いた傘のせいで、手に持つ鞄がいつも以上に煩わしい。スローペースな歩調で、私は傘の群れに混ざっていく。

 

きっと誰の中にも「雨の日」にカテゴライズされた記憶があるんじゃないだろうか。

私の場合はいい記憶もたくさんあるけれど、雨の温度に引きずられるのかひんやりとした記憶が多い。

 

今日も降る雨を眺めて過ごす。

「いろいろあったなぁ」

とひとりつぶやく

「本当によくやってきたよなぁ」

と声に出してみる。

 

降る雨につられて、雨に飾られた日を思い出す。

ゆるいエールを、ぽつぽつとつぶやき自分に送る。

それが私の雨の日の過ごし方。